ニューヨーク

ある日突然ニュ-ヨ-クを訪れたくなった。
と、いっても私は色々な所へ旅をするわりにはひどく臆病なので、友人が住んでいる場所以外はめったに訪れない。

そういうわけでその時も何年も前に知り合った、日本に訪れたことのある友人に電話をかけ、「じゃ、来週行きますから」との爆弾発言を落とし、翌週には飛行機に飛び乗っていた。
随分迷惑な話だけれど、その時は若かったからまぁ許してほしい。

彼女が住んでいるのはブルックリンで、居住区が多い静かな地域。
初日から数日は彼女が仕事で忙しいのでひとりで騒がしいマンハッタンまで出むいてぶらついていた。

そして高層ビルの間に時おり吹き荒れる強風にもまれながら、ものすごく不思議な雰囲気を味わった。
それは私が単に田舎者だからなのかもしれないけれど、とにかくマンハッタンにある高層ビルはほんとうに人類が作ったとは思えないほど高い(高層というからには当たり前なのだが)のだ。

それなので空を見上げると両方のビルが自分のほうに顔を向けていて空が狭く一本の道のようにさえ見える。本当にどっちが地面なんだか分からなくなるし、地鳴りのようにふきあげてくる地下鉄の騒音で少しだけ混乱状態になったように思う。

その後友達の家へ帰る為にタクシ-を止めて、これで少しは落ち着いた町について友達と楽しく話せると胸をなでおろした。
と、その次の瞬間、タクシ-のおじさんが「アイ キャント スピーク イングリッシュ」(英語話せないよ)と言ってきたからこれまた倒れそうになったのだが。

最終的には紙にどこにいきたいかを書いて、そのおじさんが地図をみながらドライブして事なきを得たのだが、正直冷や汗ものだった。
おじさんは3日前にアフリカから夢を持ってニュ-ヨ-クに渡ってきたのだと、言葉が話せないと言ったわりには片言で明るくコミュニュケ-ションをとってくれたが、これまた驚きである。

ニュ-ヨ-ク、それは何がおこるか分からない、まるで巨大な生き物が特別なパワ-をまきちらしているかのような雰囲気の、他にはない町であった。

«
»